「不変と革新」

久月

伝統を守り、挑戦続ける

来年向けのひな人形の製作を進める横山久吉郎社長(左)と長男の久俊専務

「守りと攻め」

伝統を守りつつ、新たな挑戦を続けていく―。来年創業180年を迎える久月が貫くのは「守りと攻め」の経営だ。
 
同社は現在、人形の企画や仕入れ、販売まで手がけるが、その歴史は江戸時代の天保年間に横山久左衛門が武士を嫌って、ひな人形を作ったことに始まる。以来、ひたすらに本業志向を通してきた。創業から「人に感動を与えられる人形を作り、お客さまに提供すること」という理念は変わらない。7代目の横山久吉郎社長は「人形に全ての経営資源を集中し、さらに人形から全ての経営資源を蓄積してきた」と会社の姿勢を話す。
 
横山社長も伝統を守りながら挑戦を続け、人形を通じて新しい価値を顧客に提案している。衣装デザイナーのワダ・エミ氏との共同開発や、タカラトミーとの「リカちゃんのひな人形」製作は代表例。新たな需要の掘り起こしに力を注いでいる。
 
こうした挑戦を支えるのは腕のいい職人。だが年々減少する職人をどう守るかが喫緊の課題だ。「人形問屋の仕事はさまざまな個性の職人が作った部位部品を組み合わせて最高の商品を創造することにある」と横山社長は断言する。
 
久月は長く職人を抱えず事業を展開してきたが、12年に廃業した人形製造会社の従業員を関連会社で雇用した。「長い間『問屋業に専念すべき』と考えてきたが、技術を守る一つの手段として決断した」(横山社長)。

1000店で販売

久月の人形を扱うのは専門店や百貨店、量販店など1000店舗以上。こうした取引先には売り場作りや陳列方法、販売員の教育など総合的にアドバイスし続けている。人形作りとともにこうした努力もあり、少子高齢化で市場が縮小傾向にあるなか14年7月期は増収を確保した。横山社長は「出生率は下がっても、一人の子どもにかける支出が増え、購入単価は上がっている。良いものを作れば必ず売れる」と手応えをつかんでいる。

感動与える人形

横山社長は「感動を与える人形を提供する」という理念に則った新たな挑戦として「7代目監製」の新ブランド開発に乗り出した。「お客さまが気に入るか気に入らないかは考えない。長く人形の世界にいる者として、自分が作ったものを世に問うてみたい」という。来年のひな人形商戦向けに製作、得意客からは好評だった。「従来の久月ブランドよりも評価が高ければ、アッパーブランドとして定着させたい」と考えている。
 
若手の採用にも積極的で、社員の平均年齢はここ数年で3歳ほど下がった。横山社長は「平均年齢が下がったら、全体の雰囲気が良くなった」とし、「若い社員が仕事に情熱を注ぐ姿を見て、私も元気をもらっている」と目を細める。
 
横山社長の座右の銘は「たゆまざる歩みおそろし蝸牛(かたつむり)」。「遅々とした歩みでも構わないので、必ず前に進むことが大事」という。続けて「挑戦した結果、失敗してもいい。挑戦しないことには次の展開はない」と強調する。

企業概要

1835年(天保6)に創業し、来年には創業180周年を迎える。株式会社化した1950年以来、黒字経営を続けている。71年に人形業界で初めてテレビCMを流し、知名度を上げた。本社は人形問屋が多く軒を連ねる東京浅草橋に構える。横山久吉郎社長は7代目で、95年に社長に就任した。主力商品のひな人形と五月人形で売り上げの9割を占め、残りが羽子板や破魔矢などの節句商品となっている。14年7月期の売上高は56億円。従業員は134人。


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