「不変と革新」

法政大学大学院教授 久保田章市氏

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法政大学大学院教授 久保田章市氏

久保田章市氏

第1回として、長寿経営を専門に研究している法政大学大学院の久保田章市教授に経営理念の持つ意味について聞いた。

くぼた・しょういち:75年(昭50)東大大卒業後、横浜国大院経済学博士を修了。三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、神田支店長などを経て06年三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員。08年法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。61歳。

「世間に恥じない経営」 伝統継承が長寿のカギ

◆―長寿企業と経営理念の関係について教えて下さい。

「伝統の継承と革新が企業の継続の車の両輪。経営理念はその中の継承の部分だ。具体的な中身を見ると『信用第一』『地域と社会に貢献する』『品質本位』『従業員を大切に』など、企業として当たり前の、守らなければならないことばかりだ」

「ただ企業が大きくなって何万人もの従業員を抱えるようになると、継承なんて言っていられなくなる。株主に対する責任がのしかかり、経営トップが数年おきに交代すると理念がブレてくる。だから本当は、長寿を目指すなら規模を拡大せず、株式も公開するなと言いたい」

◆―資本の本質は利潤獲得であり、規模には関係ないのでは?
 
「そうだろうか。欧米の企業は『ひともうけしたい』という目的で生まれた。しかし日本の長寿企業は『従業員や社会のため』を思っている。社是や社訓に『株主のため』とうたっている例はほとんどない。むしろ、もうけようと無理をした企業がどこかで駄目になる。これは資本の論理とは違う」
 
「米国だって、すべてが株主中心主義ではない。ダニー・ミラーの研究では、米国の同族企業は経営指標で非同族を上回っている。同族経営は長期的な視野で戦略を立てる点で、日本の長寿企業と似た部分がある」
 
◆―一般には、同族経営は問題を起こしやすいと言われますが。
 
「コンプライアンス(法令順守)面では、そうした心配もある。ただ倫理面なら日本の企業には昔から『世間に恥じない経営』という理念はあった。多くは家族経営の時代に生まれたものだろう。それを大企業になってどうやって維持していくかの問題だ」
 
◆―社員への経営理念の浸透が大事だということですね。
 
「大企業の社員の多くは、自社の経営理念を問われても答えられない。しかし中堅だと毎朝、唱和したり、社長に聞かされたりしているから説明できる。企業理念は憲法のように、常に脳裏にあって企業行動の判断基準にするものだ。大企業であっても理念を風化させず、きちんと持ち続けていれば長生きできる」
 
「たとえば、大企業でも韓国のサムスングループなどは長寿の可能性があると思っている。同族経営で、社員に強い理念が浸透している。彼らが日本に学び、日本の良さを取り入れたことに注目している」
 
◆―そのほか長寿を目指す企業の課題は?
 
「しっかりした理念を持つという点では中小企業が有利だ。ただ現代では中小といえども長寿が難しくなっている面がある。外部要因としては技術や進歩が早いこと。内部要因としては少子化による後継者不足だ。昔のように養子を後継者とすることも受け入れられにくい。これは悩ましい問題だ」


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